2018年4月14日土曜日

(192) 直接経口抗凝固薬DOACsと周術期管理

まずは止血機序をトロンビンを中心に見直して見る。

血管が破綻すると血管外のコラーゲンが露出し、それに対して血小板が集まり、血小板粘着が起こる。

同時に、細胞表面に発現した組織因子に血流中の活性化凝固第Ⅶ因子(Ⅶa因子)が結合し外因系凝固が活性化され、きわめて微量のトロンビン、いわゆる初期トロンビン(initial thrombin)が産生される。

初期トロンビンにより血小板は活性化し、血小板凝集が起こり一次止血が起こる。

一方、初期トロンビンだけでは量が少ないため、フィブリノゲンをフィブリンにすることはできない。しかし、初期トロンビンにより、内因系凝固は活性化し、そのカスケードにより、再びトロンビンが産生される。これがフィードバックすることにより、一気にトロンビンの生産が増幅され、数百倍の濃度になる(トロンビンバースト)。これによりフィブリノゲンからフィブリンが生成されるようになり、二次止血が完成する。

以上の流れを見ると、止血において内因系凝固活性機序よりも、外因系凝固活性化機序のほうがより重要である。

この止血機序を踏まえ、
最近の抗血栓療法で使用頻度が増えてきた、
NOACs、あるいはDOACsを見てみる

新規経口抗凝固薬(Novel Oral AntiCoagulants; NOACs)
あるいは、直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant; DOACs)には、

ダビガトラン(商品名:プラザキサ®)
リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®)
アピキサバン(商品名:エリキュース®)
エドキサバン(商品名:リクシアナ®)
の四種類がある。

ダビガトランは直接トロンビン阻害薬だが、
残りの三つは直接Xa阻害薬である。

ダビガトランはトロンビンをターゲットにしているため、
初期トロンビンの合成も阻害してしまう。
その結果、初期の血栓形成が阻害されので、
他の直接Xa阻害薬と比較し、出血リスクが高い。

一方、直接Xa阻害薬はフィビリン産生だけを阻害することになるので、
初期トロンビンから血小板活性化を経る初期の血栓形成はOKなので、出血リスクが低いという特徴がある。

最近、DOACs内服患者に手術が必要になることも増えてきた。

DOACsは固定用量で一定の効果が得られると考えられている。
それもあって、現在、術前にその効果をモニタリングできない。

しかし、ダビガトランを除き、
残りの3種類は血中濃度が高ければ、
APTT、PT-INRは延長する傾向にある。
ただAPTT、PT-INRが正常だからといって、
DOACsの血中濃度が低いとは言えない。

現在、特に日本ではDOACsの拮抗薬は発売されていない。

侵襲的手技による出血リスクを回避するために、
様々なガイドラインが休薬期間を推奨している。
従って、麻酔科医としては休薬期間を参照し、
区域麻酔などの侵襲的手技の実施するかどうか検討、
あるいは実施するために休薬期間の提案をすることになる。

半減期の5倍に設定しているだけのものだったり、
出血性合併症の発生リスクを中心に設定されているものだったりする。
すなわち休薬による血栓形成のリスクを考えての設定ではないので、休薬による血栓形成を念頭に置く必要がある。


日本区域麻酔学会 第5回学術集会
抗血栓療法と区域麻酔
講義メモより



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