2017年9月16日土曜日

(189) 脊髄くも膜下麻酔:血小板数低下と硬膜外血腫の発生リスク

neuraxial technique、
すなわち、
脊髄くも膜下麻酔(SA)、
硬膜外麻酔(EA)、
あるいは脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(CSEA)は、
帝王切開術を中心に、今でも広く行われている。

その実施に先立ち問題になるのは出血傾向の有無だ。
出血傾向の有無の判定の指標の一つに血小板数がある。
血小板数がどのくらいだと硬膜外血腫のリスクが高まるのだろうか。

データベースを利用し、
血小板数減少症例にneuraxial techniqueを実施した際の
硬膜外血腫、
特に除圧のための椎弓切除術を必要とするような硬膜外血腫の発生リスクを評価した。

Risk of Epidural Hematoma after Neuraxial Techniques in Thrombocytopenic Parturients: 
A Report from the Multicenter Perioperative Outcomes Group.
Anesthesiology. 2017 Jun;126(6):1053-1063.

対象は、
・18~55歳の産科症例
・neuraxial technique実施72時間前の採血検査で血小板数が100,000万以下
・neuraxial techniqueはSA、EA、CSEA
・2004年1月〜2015年9月

妊婦84471症例のうち、
血小板数が100,000万以下だったのは573症例(0.7%)だった。

血小板数で層別化すると、
0~49,000 (n=15)
50,000~69,000 (n=36)
70,000~99,000 (n=522)
で、

結果からいうと、
除圧のための椎弓切除術を必要とするような硬膜外血腫の発生は無かったのだが、
計算上の95%信頼区間の上限は、
0~49,000    20%
50,000~69,000  8%
70,000~99,000  0.6%
となる。

計算精度を高めるために、
過去に報告された症例(939症例)を統合し、1524症例で再計算している。

やっぱり、
除圧のための椎弓切除術を必要とするような硬膜外血腫の発生は無かったのだが、
計算上の95%信頼区間の上限は、
0~49,000    11%
50,000~69,000  3%
70,000~99,000  0.2%
となる。

日常診療における麻酔方法の選択、並びに患者説明において、
知っておくべき数字である。

参考として、

抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロック ガイドライン
の中では、

硬膜外および脊髄くも膜下穿刺では,血小板数が 10.0×104 / μl 以上であることが望ましい.
8.0×104 /μl 未満での硬膜外穿刺,
5.0×104 / μl 未満での脊髄くも膜下穿刺は推奨されない.

となっている。

一般的には脊髄くも膜下穿刺は硬膜外穿刺よりも、
硬膜外血腫の発生リスクは少ないと考えられる傾向にあるので、
脊髄くも膜下麻酔に限って言えば、
先の11%、3%、0.2%はもう少し低く見積もっていいのかもしれない。