2017年7月28日金曜日

(187) 神経ブロックには鈍針か?鋭針か?

日常診療で超音波ガイド下神経ブロックを実施する際、
選択しているブロック針はカテラン針である。
いわゆる鋭針と言われる針だ。
キレがいいので繊細に針先を誘導できるので好んで使用している。

余談だが、ネット情報によると、
カテラン針はカテランさんが局所麻酔のために考案した針長50mm程度の長い針の事らしい。
なるほど。

ただ学会でのエキスパートオピニオンは、
区域麻酔では鈍針の使用が優勢な気がしている。

鈍針はキレが悪いが故に、神経に刺さりにくく安全。
筋膜などを通過するときの穿通感を感じやすいのもメリット。
との考えからだろうか。

おかげで最近、鋭針を使うことに肩身が狭い思いを感じている。


そこで、区域麻酔の情報が充実している、
NYSORA;New York School of Regional Anesthesia
のホームページは参照してみた。
(日本語訳としてはニューヨーク区域麻酔研究会だそうだ。)

FOUNDATIONS OF REGIONAL ANESTHESIAの中の、
"Equipment for Peripheral Nerve Blocks”や、
”Neurologic Complications of Peripheral Nerve Blocks”に、
区域麻酔で使用する針のことについて記載がある。

今回は針先のデザインについて。

実際に、針先のデザインと神経損傷の関連を示した論文は少ない。

神経穿刺した時、fascicle損傷のリスクは鋭針より、鈍針の方が少ない。
しかし、ひとたびfascicle損傷した場合、鋭針よりも鈍針の方が、その損傷の程度はひどい。

つまり、
鈍針は確かにfascicleに刺さりにくいんだけど、
一度刺さってしまうとダメージがでかい、
という理解になる。

で、NYSORAとしては、
区域麻酔で鈍針の使用を推奨しているわけでもなさそうで、

実施するブロック、
患者のサイズ、
術者の好み
で針の選択をする、としている。

ということは、
繊細に針先を誘導できるのでカテラン針がいいと考えている現状においては、
個人的にカテラン針を選択しても非難されるものではない、
と考えてもいいのかなと思う。

2017年7月9日日曜日

(186) 術中低体温が術後予後に与える影響

たいして人の名前は覚えていないが、
Sesslerという名前には、「あ、体温の権威ね。」という漠然としたイメージがあるる。

体温といえば、昔は全身麻酔によりしばしば低体温になっていた記憶がある。
しかし、このSesslerらのグループが、術中低体温が術後転帰の悪化(手術部位感染症増加、出血量増加、入院期間延長)させると報告して以降、皆一生懸命、例えば温風式加温装置を使用して加温に努めるようになった。
おかげで、最近では術中低体温は見ることはほとんどなくなった。

ところが!

不勉強は恐ろしいもので、

この体温と予後の関係について否定的な意見が多く、
今では、35度代程度の低体温では臨床的に有意な転帰の悪化は認めない、

というのが最近の常識になっているらしい。

つまり、過去に常識とされていたエビデンスが覆されたわけである。



他にも、
体温ほどのインパクトは個人的にはなかったのだが、
高濃度酸素投与を行うと、手術部位感染症が減るというエビデンスもあった。
しかし、このエビデンスも今では否定されている。

エビデンスレベルが高いとされるメタ解析により有効性が示されていても・・・。

今の常識は、明日の非常識。

この気持ちを忘れずに、
これって本当にそうなの?と自問自答しながら、
日々の日常診療に取り組んでいかなければいけない。


否定されてしまったエビデンスは両方ともSesslerのグループのものらしい。
彼らの報告はほとんど今では否定されているとのこと。
一体なんだったんだろう!?

今回のLiSA7月号の特集
エビデンス、兵どもが夢の跡−1
「周術期高濃度酸素投与」の迷走とWHOガイドラインの過ち、
は読み応えがありました。
シリーズものっぽいのでこれからが楽しみです。

2017年7月1日土曜日

(185) 肺リクルートメント手技は輸液管理指標になるのか

従来輸液の指標として使用されていたCVPやHR、血圧など、いわゆる静的指標よりも、
SVVなどの動的指標の方が輸液反応性や輸液管理の指標として正確であると考えられている。
とはいうものの、SVVが麻酔中に必要不可欠なものかというと、そうでもない。

なんでか。

ARDSから始まった肺保護換気戦略が、
手術中の麻酔にも広がってきた近年、
一回換気量の設定を、SVVを評価するため必要なを8ml/kg以上にしたくない。
低換気量ではSVVの信頼性が低下してしまう。

SVVを活用すれば予後が改善する!と言いたいけど言えない。
なくても麻酔科医の経験である程度カバーできるからかもしれない。
しかも、動的指標とセットで扱われることが多いGDTの優位性も最近では怪しい。

SVVを測定するためには某社の機器が必要
→予後を改善できるかわからないのに、しっかり金はかかる。

でもやっぱり術中の判断に、なんらかの動的指標があると嬉しい。
そこで出てきたのが肺リクルートメント手技(LRM)を活用するというアイデアがある。

Changes in Stroke Volume Induced by Lung Recruitment Maneuver Predict Fluid Responsiveness in Mechanically Ventilated Patients in the Operating Room.
Anesthesiology. 2017 Feb;126(2):260-267.

人工呼吸器で圧サイクルを作る代わりに、
用手的に用圧を作り出そう!ということで、
原理は基本的に同じである。

バッグを押して、
呼吸回路内圧を高めると、
胸腔内圧が高まり、
右心前負荷 減少、
右心後負荷 増加し、
結局、右心拍出量が減少する。
回り回って左心拍出量も減少する。

その減少具合が大きいと輸液反応性あり!と判断できる、というわけである。

volume control:TV 6-8ml/kg
肺リクルートメント手技:30cmH2Oを30秒間

-30%以上SVが低下していると、
感度88%、特異度92%で輸液反応性があることを予測できる。
gray zoneは-22%〜-37%。
AUCは0.96(0.81-0.99)ということでなかなか良い。

でも、やっぱりSVを知るためには某社のキットが必要になる。

SVの代わりに何かで代用できないか?

BP ≃ CO x SVR より

BP(SAP)で代用できてくれると嬉しいのだが、
ΔSAP-LRMのAUCは0.52(0.26-0.77)で輸液反応性の指標としては役に立たない。

BP ≃ CO x SVRの式も、実際はCVP、あるいはRAPを加味しないといけない、
あるいは左室後負荷が上がる影響もあるのか。

肺リクルートメント手技で動的指標が得られ、
輸液反応性を推定できるようになるのはいいのだが、
結局、某社のキットが必要になるのは変わらないのか。残念。